
ハナちゃんは昭和なおうちに住んでいる。
リフォームが進んで昭和度が一段とアップしたある日、
おかーちゃんは庭で捨てられるのをひっそりと待っている瓶を見て、ふと思った。
「ぬか漬けを作ってみようかしら。昔の生活に戻るのもいいわよね」
喜んだのは漬物好きのおとーちゃんだ。
「おかーちゃん、大きくなったのう。やっと漬物が食べられるようになったかあ」
「おとーちゃん、さすがだわ。年をとったね、って言わないところがミソね」
ほめてるのか、けなしているのか、ワケのわからないコメントをしたのは夏芽ちゃんだ。
かめ蔵と名付けられた瓶は、きれいに洗われてうれしそうだ。
「やった!捨てられないで済んだ。またお仕事をもらえたよ!」
本当はお庭で作った野菜を漬けたかったおかーちゃん、
いつ食べられるかわからないと言うおとーちゃんに負けて無農薬野菜を買ってきた。
おかーちゃんは、おとーちゃんが《ぬか蔵》と名付けたぬか床を毎日かき回している。
「それにしても、おとーちゃんのネーミングはセンスがないわ。なんでも“蔵”を付ければいいってもんじゃないでしょ」
おかーちゃんのぬか漬けは評判が良かった。
「次は麹漬けを作ろうかしら♪」
ご機嫌なおかーちゃんを見て、夏芽ちゃんはボソッと言った。
「ぬか漬けって野菜を入れるだけでしょ。わたちだって出来るわ」
おとーちゃんは慌てて夏芽ちゃんの口を押さえた。
「夏芽ちゃん、ここまでたどり着くのに何年かかったと思ってるの?
おとーちゃんは、おかーちゃんのらっきょう漬けが食べたいんだ。
らっきょうをむくのが嫌だって最後に作ってからもう10年以上経ってるんだよ。
レシピは門外不出の秘伝だからって教えてくれないんだ」
《漬物を食卓に並べる計画》を達成したおとーちゃんは、
《らっきょう漬けを思い切り食べる作戦》を開始した。