
去年の10月以来、おかーちゃんは夏芽ちゃんを毎週お風呂に入れている。
カユカユが悪化したからだ。
「うちに来た時からずっとだから、もう治らないと思うのよね」
専用のシャンプーを使うのはいいけど、素手で洗うおかーちゃんの手はガサガサだ。
カユカユはついに耳まで侵略した。夏芽ちゃんは、痒さのあまり、耳を床に打ちつけるようになった。
「もう耐えられない!こんなの見てられない!」
おかーちゃんは、専門医を探した。
9年分の健康診断の結果と、既往症のコピーを抱え、おかーちゃんは予約の日を待った。

動物病院の先生は、皮膚と耳の菌の検査に加え、血液検査を勧めた。
結果はすぐに出た。
「え? 皮膚の検査結果ってすぐに出るの?」
おかーちゃんは驚いた。
でも結果を聞いたおかーちゃんは、もっと驚いた。
「夏芽ちゃんは、マラセチアではありませんね」
「耳にもマラセチア菌がいないんですか?」
「違う菌ですね」
「専用のシャンプーで洗っていたんですけど」
「逆効果だと思います。お湯の温度は何度にしてますか? タオルドライの方法は? 保湿剤はどうやって使ってます?」
先生からのアドバイスで固まったおかーちゃん、目からウロコをボロボロ落としたながら、涙も流した。
「この子、治るわ!」
先生は続けた。
「それから血液検査の結果なんですけど、17歳としてはかなり優秀ですね。少々高めの数値もありますけど、詳しい検査が必要なほどではありません。どうしても気になるようでしたら尿検査をしますからおしっこを持ってきてください」
おかーちゃんはお礼を言いまくり、頭を下げまくって帰ってきた。
「さすが専門医だわ。保湿剤の種類も選べるし」
並べられた保湿剤を片っぱしから試したおかーちゃん、人間も使えるレベルのものを選んだ。
帰りの車の中でおかーちゃんに抱っこされながら、夏芽ちゃんはブチブチ文句を言った。
「良かったわね、おかーちゃん。これで手のガサガサから解放されるわね。でもね、わたち、お風呂の入れられるたびに、うおーん、うおーんって鳴いてたでしょ。わたちマラセチアじゃないわ、って伝えてたのよ。わからないなんて飼い主修行が足りないわね。あーあ、もう少し生きて、おかーちゃんを鍛えなきゃ。わたちも苦労が絶えないわ」
夏芽ちゃん、まだ虹の橋を渡る予定はないらしい。